11月21日、ロシアが南部アストラハン州から大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したと、ウクライナ側が発表した。後にロシア側は新型の中距離弾道ミサイルだったと明らかにしたが、この一件はウクライナ戦争が新たな局面に入ったとの懸念を市場に広げ、WTIの下値を支える要因となった。
この地政学材料と並行して、上値を抑える動きも存在した。世界的な石油需要の低迷を背景に、OPEC+有志国による自主減産縮小の延期観測が浮上し、JPモルガンも世界の石油需要見通しを下方修正した。下値を支える地政学材料と、上値を抑える需要懸念——方向の異なる二つの力が拮抗する中で、WTIは65〜75ドルのレンジ内での推移を続けている。
足元では供給サイドへの懸念が相対的に強く意識されているが、中期的な視点では需要見通しの軟化が重しとして働き続けている。この二つの時間軸(足元の地政学リスクと、中期の需要見通し)を分けて捉えることが、レンジの上下どちらが崩れやすいかを判断する手がかりになると考えられる。
方向の異なる材料が拮抗する局面では、新規に方向性のポジションを構築する際のリスク・リワードが見合いにくく、リスク管理の一つとしての「(ポジション)スクエア」が合理的なポジショニングの選択になりやすい。市場が拮抗した状態、または重要イベント前にはアウトライト・ポジションを縮小しながらブック全体のエクスポージャーを調整する場面が観察されることがある。
11月のCFTCデータでは、まさにこの構図が確認できる。直近の建玉報告では、売り買いともに手じまい中心の手口が支配的であり、地政学リスクと需給懸念の綱引きを色濃く反映していた一方、11月5日時点のデータでは投機筋のロング増加が観察されており、価格が下値に接した局面で買い戻し・打診買いの意欲が強まったことを示している。価格がレンジの過去の防衛水準に接近する局面では、その水準は過去にも下げ止まりの実績がある分、割り込むリスクは相対的に限定的である一方、そこから反発した場合に得られる値幅は大きい。このリスク・リワードの非対称性が、レンジ端に限って押し目買い意欲を強める動機として働くと考えられる。
手仕舞い中心の様子見と、下値での押し目買い意欲は、一見矛盾するようでいて、実際には同じ「拮抗した材料の下で方向性を確信できない」という状態から生じる、整合的な行動とも言える。ただし、「スクエアは立派なポジション」であり、リスク管理の一形態として理解することが重要であると考える。
長期先物曲線の水準は、引き続き落ち着いた状態にある。10月29日号では「仮に米大統領選、その他要因で原油価格が乱高下しようとも、長期曲線の水準が現状維持の場合は市場の変動も一過性になると考えられる」との見立てを示していたが、11月時点でも概ね似たような動向が続いている。
米大統領選その他要因で価格が乱高下しても、長期曲線の水準が維持される限り、市場の変動は一過性にとどまると考えられる。
ICBM発射という重大な地政学材料が発生したにもかかわらず、長期先物曲線は一過性の気配さえ見せることなく、適温の水準を維持している。
長期曲線が水準を維持している背景には、市場が今回の地政学材料を、近い限月に集中する時間限定のリスクとして価格に織り込んでいるという構造があると考えられる。加えて、上値を抑えているOPEC+の減産縮小延期観測は、供給が急増する材料ではなく、むしろ供給規律が保たれている状態を意味するため、中長期の需給バランスに対する認識そのものを揺るがす材料にはなっていない。近い限月で吸収しきれるリスクと、中長期の需給認識に変化を迫るリスクとを区別できることが、長期曲線が動じない理由だと考えられる。
2024年11月のWTI原油市場は、下値を支える地政学材料(ウクライナ戦争の新局面)と、上値を抑える需要懸念(世界的な需要軟化・OPEC+減産縮小延期観測)が拮抗する中、65〜75ドルのレンジを維持している。市場参加者の慎重な様子見と、長期先物曲線の水準維持が、このレンジを支える構造として機能していると考えられる。この均衡が崩れない限り、価格そのものを扱う取引・限月間の価格差を扱う取引のいずれにおいても、大きな方向感は生まれにくいと考えられる。